HOTEL CALIFORNIA
(ホテル・カリフォルニア)

The Eagles

Hotel California

Hotel California
New Kid In Town
Life In The Fast Lane
Wasted Time
Wasted Time (Reprise)
Victim Of Love
Pretty Maids All In A Row
Try And Love Again
The Last Resort


1976年
Elektra/Asylum/Nonesuch Records A Warner Communications
Photo by David Alexander/Graphics by Kosh/Poster by Norman Seeff
Art Direction by Don Henley & Kosh

ウェスト・コーストの70年代を代表するこのアルバムはイーグルスをある種の「伝説」に祀り上げてしまった。正確にはタイトル曲が、であるが。最初と最後の曲を除くと、このアルバムは非常によく出来たロック・アルバムである。このアルバムの前後にリリースされた「呪われた夜」と「ロング・ラン」もそうであった。
ドン・ヘンリー/グレン・フライという優れたシンガー・ソングライター・チームは美しい曲を書き、その声は唄に力強さを与えた。ドン・フェルダーとジョー・ウォルシュという強力なギタリストがそれに力強いボディを与え、ヤワな佳曲集には終わらせない。そしてジョー・ウォルシュとランディ・マイズナーという個性的なソングライター/ヴォーカリストがバンドのレパートリーに深みと幅を付け加えるのだ。「呪われた夜」にはジョー・ウォルシュがおらず、「ロング・ラン」ではランディ・マイズナーがティモシー・B・シュミットに 替わっているが、基本的なところは同じである。

しかし"Hotel California"と"The Last Resort"は暗喩に満ちた歌詞で「アメリカン・ドリーム」が最早存在しないことを歌い、このアルバムを「アメリカ」というものに対する鎮魂歌としたのだ。このステートメントはある種際どいバランスの上に立っていた。ヴェトナム戦争を経たアメリカは確かにもう以前のアメリカではなかった。それはみんな知っていただろう。しかしウェスト・コーストはそのイメージとして理想主義的な部分を残していた。それは60年代のビーチ・ボーイズに代表される「若者達の夢」であり、そしてまた「ウッドストック」に象徴される幻想だったのである。イーグルスは"Take It Easy"(テイク・イット・イージー=気楽にいこうぜ)で清清しくデビューし、"Desperado"(ならず者)でノスタルジックに荒くれ者の孤独を称え、"The Best of My Love"(我が至上の愛)で甘く切ないラブ・ソングを奏でた。そのまさにウェスト・コーストたるバンドが「楽園の終わり」を歌うのだ。それも恐ろしいほど計算されたサウンドで。

"「ようこそホテル・カリフォルニアへ この甘美な世界へ
  何時でも部屋を用意して、あなたがいらっしゃるのをお待ちしています」
 (中略)
 僕は支配人を呼び、ワインを注文する。彼は「私どもはそのスピリット(魂)を1969年以降置いてございません」と言う。
 (中略)
 最後に思い出せることは、ドアを求めて走る回る僕の姿。最初に入ってきたあの場所に戻らなきゃ。 「落ち着きなさい」と夜警は言う。
 「私達は留まるべく定められているのだ。 チェックアウトは何時でも出来るが、決してここを離れられないのだから。」”
   (Hotel California/written by Don Felder,Don Henley, Glenn Frey/高崎勇輝訳)

冒頭の"Hotel California"で退廃したアメリカの姿を、ドン・ヘンリーはそのハスキーな声で暗喩に満ちた歌詞に載せて歌う。この曲の凄さは、「甘美な死」たるところである。イントロの12弦ギターの響きから、コーラスとツイン・リードの裏メロでビシッと決めるサビのフレーズ、そしてエンディングの迷路を表現したギター・ソロ。 歌詞の解説といった野暮なことは抜きにしても、グイグイと胸を締め付ける。

”何が君のもので何が僕のものなのか。そんな大きなこの世界の仕組みが誰が造れるというのだろう。
 だって「ニュー・フロンティア」などもう何処にもなく、我々はその答えを自分で見出さなければならないのだから。
 僕らは際限の無い欲望を満たし、その残虐な行いを正当化した。 運命の名の下に、神の名の下に。

 日曜の朝、人々は立ち上がって神の国を讃える。彼らはそれを楽園と呼ぶ。僕には分からないよ。
  人はある場所を楽園と呼び、そして永遠に駄目にしてしまう。" (Last Resort/written by Don Henley, Glenn Frey/高崎勇輝訳)

最後の"Last Resort"はアメリカの「楽園」が、先住民の世界の破壊の上になりたっていることを歌う。それは丁度アメリカ合衆国の建国200年を祝おうとしている人々への痛烈な皮肉である。アメリカはその略奪の歴史を祝う。どんなに先住民を保護すると言っても、取り上げたものを返す訳にはいかないのだ。

イーグルスはこの後、サウンド的には遜色の無い「ロング・ラン」を制作する。そして、その過程でのプレッシャーに疲れ果てて活動を停止する。そりゃそうだろう。ジョーカーは1枚しかないのだから、それを切ってしまえばゲームは終わりである。そしてイーグルスは90年代に入ってから解散時のメンバーで活動を始める。とは言っても彼らに出口はなく、「ホテル〜」のエンディングの迷路を走り続ける。オーディエンスはコンサートの冒頭で"Hotel〜"に聞き入り、最後に"Take It Easy"をリクエストする。誰もここから出ることは出来ないのだ。

 

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